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東京高等裁判所 平成6年(行ケ)146号 判決

東京都千代田区丸の内2丁目2番3号

原告

三菱電機株式会社

同代表者代表取締役

北岡隆

同訴訟代理人弁理士

竹中岑生

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官

荒井寿光

同指定代理人

鈴木泰彦

亀丸広司

吉野日出夫

幸長保次郎

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

(1)  特許庁が平成5年審判第10903号事件について平成6年4月25日にした審決を取り消す。

(2)  訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文同旨

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和59年11月22日、特許庁に対し、名称を「2気筒形回転圧縮機」とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願(昭和59年特許願第247725号)をしたが、平成5年3月11日、拒絶査定を受けたので、同年5月27日、審判を請求した。そこで、特許庁は、この請求を平成5年審判第10903号事件として審理した結果、平成6年4月25日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年5月25日、原告に対し送達された。

2  本願発明の要旨(特許請求の範囲の記載)

中間仕切板で仕切られ、吸入行程に位相ずれがある第1、第2の圧縮室を形成する各シリンダに低圧冷媒ガスの吸入通路を穿設した2気筒形回転圧縮機において、シリンダ等を収納する密閉外被外に位置させた冷媒ガスの共通吸入管を共通のアキュームレータ内の空間に突出させ、この空間に連通させた第1および第2の吸入管の先端をそれぞれ上記密閉外被を通して上記の対応各吸入通路内に挿入させたことを特徴とする2気筒形回転圧縮機(別紙図面(1)第1図参照)

3  審決の理由の要点

(1)  本願発明の要旨は前項に記載のとおりである。

(2)  これに対し、昭和58年特許出願公告第23539号公報(以下「引用例1」といい、同引用例記載の発明を「引用例1記載の発明」という。)には、次の発明が記載されている。

「隔壁18で仕切られ、吸入行程に位相ずれがある圧縮要素2、圧縮要素3の圧縮室を形成する各ミリンダ12、13に、冷媒ガスの吸入口8、9を穿設した2気筒形回転圧縮機において、シリンダ等を収納する密閉外被外に位置させた冷媒ガスの共通の吸入管を、共通の気液分離器39内に連通させ、この気液分離器39に一つの管を介して連通した吸込管30及び吸込管31の先端を、それぞれ上記密閉外被を通して上記対応各吸入口8、9に連通した2気筒形回転圧縮機」(別紙図面(2)参照)

(3)  本願発明と引用例1記載の発明とを対比すると、引用例1の「隔壁18」「圧縮要素2、圧縮要素3の圧縮室」「吸入口8、9」「気液分離器」「吸込管30及び吸込管31」が、本願発明の「中間仕切板」「第1、第2の圧縮室」「吸入通路」「アキュームレータ」「第1および第2の吸入管」にそれぞれ相当するから、両者は、

「中間仕切板で仕切られ、吸入行程に位相ずれがある第1、第2の圧縮室を形成する各シリンダに、冷媒ガスの吸入通路を穿設した2気筒形回転圧縮機において、シリンダ等を収納する密閉外被外に位置させた冷媒ガスの共通吸入管を、アキュームレータ内に連通させ、第1及び第2の吸入管の先端を、それぞれ上記密閉外被を通して上記の対応各吸入通路内に連通させた2気筒形回転圧縮機」である点で一致し、次の点で相違している。

ア 本願発明が、共通吸入管と、第1及び第2の吸入管とのアキュームレータ内への取付結合関係を、「共通吸入管を共通のアキュームレータ内の空間に突出させ、この空間に第1及び第2の吸入管を連通させた」ものであるのに対し、引用例1記載の発明は、「共通吸入管をアキュームレータ(気液分離器39)内に連通させ、このアキュームレータに一つの管を介して第1及び第2の吸入管(吸込管30、31)を連通した」ものである点

イ 本願発明が、第1及び第2の吸入管の先端を、それぞれ対応の各吸入通路内に「挿入」させたものであるのに対し、引用例1記載の発明では、第1及び第2の吸入管(吸込管30、31)と各吸入通路(吸入口8、9)との取付結合手段が明らかでない点

(4)  そこで、上記相違点について検討する。

ア 相違点アについて

(ア) 昭和56年実用新案登録願第95333号(昭和58年実用新案出願公開第1783号)の願書に添付の明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルムの写(以下「引用例2」といい、同引用例記載の考案を「引用例2記載の考案」という。)には、並列式の2気筒形ピストン圧縮機とアキュームレータ(液分離器3)とを備えた冷凍装置(別紙図面(3)参照)において、共通吸入管(吸入管4)と第1及び第2の吸入管(ガス吸入管5、6)のアキュームレータ(液分離器3)内への取付結合関係について、

〈1〉 「共通吸入管をアキュームレータ内の空間に突出させ、この空間に、一つの管(ガス吸入管7)を介して第1及び第2の吸入管を連通した」構成(別紙図面(3)第1図、以下「構成〈1〉」という。)、

〈2〉 「共通吸入管をアキュームレータ内の空間に突出させ、この空間に、第1及び第2の吸入管を連通させた」構成(同第2図、以下「構成〈2〉」という。)

が、ともに記載されている。

(イ) このように、単一の引用例2に、二つの異なる構成の実施例が示されていることからすれば、一般の2気筒形ピストン圧縮機とアキュームレータとを備えた冷凍装置において、共通吸入管と第1、第2の各吸入管の、アキュームレータ内への取付結合のための構成を、構成〈1〉もしくは構成〈2〉とすることは、設計において、当業者が、必要に応じ容易になし得る構成の変更と認められるものであり、かつ、引用例2記載の考案の構成〈1〉もしくは構成〈2〉を、「2気筒形回転圧縮機」とアキュームレータとを備えた冷凍装置に適用することについても、当業者にとって、そのための構成の変更に格別の困難を伴うものとは解されない。

(ウ) 一方、本願発明は、前記相違点アにおける本願発明の構成と、「吸入行程に位相ずれ」のある2気筒形回転圧縮機とを組み合わせた構成により、明細書記載の、「各吸入管をそれぞれ独自に最適長に設定することができ圧縮機の効率を向上できるとともに、アキュームレータ内においては、吸入ガスの相互干渉作用により圧力脈動を小さくでき、これによりアキュームレータの小型化を図れるとともに、脈動によりアキュームレータより発生する騒音も軽減できる」(平成2年12月13日付け手続補正書2頁12行ないし3頁1行)との作用効果を奏するものである。

しかしながら、「各吸入管をそれぞれ独自に最適長に設定することができる」ことは、引用例2(7頁17行ないし19行)に記載されているし、「吸入ガスの相互干渉作用により圧力脈動を小さくできる」ことは、2気筒形回転圧縮機において、該気筒の吸入行程の位相をずらすことにより本来的に生じるものであるから、引用例1記載の発明からも、程度の差はあっても当然に期待できることである。更に、本願発明において、相違点アの構成により、圧力脈動を小さくできる」ことを更に助長できるとしても、この程度のことは、当業者の予測の域を出るものではない。

(エ) してみれば、本願発明の相違点アにおける構成は、引用例1記載の発明に対し、引用例2記載の構成〈2〉を適用することにより、当業者が容易になし得るものと認められる。

イ 相違点イについて

(ア) 昭和50年実用新案登録願第152036号(昭和52年実用新案出願公開第63713号)の願書に添付の明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルムの写(以下「引用例3」といい、同引用例記載の発明を「引用例3記載の考案」という。)には、2気筒形回転圧縮機において、第1及び第2の吸入管の先端をそれぞれ対応各吸入通路内に「挿入」させた構成が記載されている。

(イ) してみれば、同じ2気筒形回転圧縮機である引用例1記載の発明に、引用例3記載の考案における上記構成を適用して相違点イの本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得る構成の変更である。

(5)  したがって、本願発明は、引用例1記載の発明及び引用例2、3記載の各考案に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。

4  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点(1)ないし(3)、(4)ア(ア)、(ウ)前段及びイ(ア)は認め、同(4)イ(イ)は争わないが、審決は、相違点アについて判断するにあたり、相違点アに係る本願発明の構成によって奏する顕著な作用効果が、引用例1記載の発明と引用例2記載の考案(構成〈2〉のもの。以下同じ)の組合せにより予測可能なものであると誤認した結果、上記組合せにより本願発明を容易に想到しうるものであると誤って判断したものであるから、違法であり、取り消されるべきである。

(1)  吸入管の長さの調節による圧縮機の効率向上の作用効果について

ア 本願発明においては、「各吸入管をそれぞれ独自に最適長に設定することができ圧縮機の効率を向上できる」(平成2年12月13日付け手続補正書2頁15行ないし17行)旨の作用効果を有するが、これは、第1及び第2の各吸入管を最適の長さにすることによって生じるところの、吸入管内での適正な圧力脈動により達成されるものである。

すなわち、圧縮機においては、動作時のローリングピストンの回転により、シリンダ内の吸入室の容積が変化するが、それに伴い、吸入管の内部では、吸気の圧力変動による脈動、すなわち冷媒ガスの圧力脈動が発生する。この吸入管脈動を適正に選べば、冷媒ガスの供給が適切かつ効果的に行われ、圧縮機の効率を飛躍的に向上させることができる。

イ これに対し、引用例1記載の発明は、「共通吸入管をアキュームレータ(気液分離器39)内に連通させ、このアキュームレータに一つの管を介して第1及び第2の各吸入管(吸入管30、31)を連通した」ものであることから、同発明が、「各吸入管内における圧力脈動により、冷媒ガスの供給が適切かつ効果的に行われ、圧縮機の効率を飛躍的に向上することができる」という本願発明の作用効果を奏することはできない。

すなわち、

(ア) 2気筒形回転圧縮機にあっては、シリンダ(引用例1記載の発明における12、13。以下の(ア)(イ)の番号についても同じ)が2個あり、それらの吸入室の容積変化については、180度(半回転分)の回転位相のずれがある。そして、各シリンダ(12、13)の吸入室(吸入口8、9から吐出口10、11に至る空間)の容積変化に伴い、第1及び第2の各吸入管(吸込管30、31)内においては圧力脈動が発生する。

(イ) ところで、引用例1記載の発明は、アキュームレータ(気液分離器39)からの1本の管を途中で分岐し、これに第1及び第2の各吸入管(吸込管30、31)を連通したものであるが、上記分岐点での吸入管の圧力脈動は、第1及び第2の各吸入管(吸込管30、31)の圧力脈動を合成したものとなるため、各吸入管の180度の位相ずれにょら、互いに相殺されることになり、各吸入管においては適切な圧力脈動が生じない結果となる。

言い換えれば、上記分岐点を通過して第1の吸入管に流入しようとした冷媒ガスの流れについて考えると、上記冷媒ガスにあっては、第2の吸入管の影響を受けて分岐点における圧力が降下するため、上記ガスの一部が第2の吸入管側へ回り込むことになる。その結果、第1の吸入管へのガス流量が減少し、第1の吸入管内部における適切な圧力脈動が生じないことになる。

同様のことは第2の吸入管においても発生することになる。

このように、引用例1記載の発明においては、適切な圧力脈動が生じないから、本願発明のような「各吸入管内における圧力脈動により、冷媒ガスの供給が適切かつ効果的に行われ、圧縮機の効率を飛躍的に向上することができる」旨の作用効果を奏することがない。

(ウ) 一方、本願発明においては、引用例1記載の発明における吸入管の分岐点に相当する部分は、アキュームレータの内部であり、アキュームレータ内の容積は吸入管に比べて十分大きいので、圧力変化は少なく、第1及び第2の各吸入管の相互干渉作用は生じない。

したがって、本願発明は、吸入管内部における適切な圧力脈動を確実に生じさせることができる。

ウ(ア) 更に、引用例2記載の考案においては、引用例2に、「第1のガス吸入管(5)は第2のガス吸入管(6)より長く、圧力損失が大きくなるように構成されている」(7頁5行ないし7行)と記載されているのみであり、圧力脈動について何らの記載もない。

引用例2記載の考案は、並列圧縮式冷凍装置に関するものであって、2気筒形回転圧縮機に関するものではなく、各シリンダは非同期に動作するものである。各シリンダが非同期的に動作する場合には、各吸入管の圧力位相は不確定に変動するから、本願発明のような構成を採用したとしても、圧力脈動の相殺を的確に防ぎ、圧力脈動を適切に生じさせるという本願発明の奏する作用効果を達成することはできない。引用例2記載の考案における第1の吸入管と第2の吸入管には、冷媒ガスが非同期的に流れるから、「2気筒形回転圧縮機の各吸入管内における圧力脈動により冷却行程の供給が適切かつ効果的に行われ、圧縮機の効率を飛躍的に向上できる」という本願発明の作用効果を奏することはできない。

(イ) また、本願発明は、吸入行程に位相ずれがある第1、第2のシリンダ圧縮室を有する2気筒形回転圧縮機において、圧力脈動を適切に生じさせ、圧縮機の効率を向上させようというものであるが、引用例2記載の考案は、潤滑油の供給を、それぞれの被供給部分の圧力関係の調節によって制御しようとするものにすぎない。

したがって、本願発明と引用例2記載の考案とはその技術的課題を異にするものである上、引用例2記載の考案における圧力損失の大小による吸入管の選定は、本願発明のように、圧縮機の効率向上のため各吸入管を最適長に設定することには結び付かず、本願発明と引用例2記載の考案とは、その作用効果を異にするものである。

エ 引用例1記載の発明と引用例2記載の考案の内容は以上のとおりであるから、本願発明の上記作用効果は、当業者において、引用例1記載の発明と引用例2記載の考案を組み合わせることによっては予測することが不可能である。

(2)  アキュームレータ内における圧力脈動の減少による作用効果について

本願発明は、「アキュームレータ内においては、吸入ガスの相互干渉作用により圧力脈動を小さくでき、これによりアキュームレータの小型化を図れるとともに、脈動によりアキュームレータより発生する騒音も軽減できる」旨の作用効果をも有している(平成2年12月13日付け手続補正書2頁17行ないし3頁1行)。

これは、本願発明の各吸入管をアキュームレータ内の空間に連通させ、吸入管の内部において、適切な圧力脈動を生じさせ、2気筒形回転圧縮機の効率を飛躍的に向上させる一方、アキュームレータ内における、吸入管の相互干渉作用による無用の圧力脈動を小さくすることができるようにしたものであって、本願発明は、それにより、アキュームレータの小型化と、騒音の軽減という作用効果をも奏し得るものである。

このような本願発明の作用効果は、引用例1記載の発明及び引用例2記載の考案とは全く異なるものである。

(3)  したがって、審決は、本願発明の作用効果は、当業者において、引用例1記載の発明と引用例2記載の考案との組合せにより予測することが不可能であるのに、本願発明の構成は、引用例1、2記載の発明、考案から、当業者が容易に想到し得たものと誤って判断したものである。

第3  請求の原因の認否及び被告の反論

1  請求の原因1ないし3の各事実は認める。

同4は争う。

審決の認定、判断は正当であり、審決に原告主張の違法はない。

2  取消事由についての被告の反論

(1)  吸入管の長さの調節による圧縮機の効率向上の作用効果について

ア 本願発明は、「各吸入管をそれぞれ独自に最適長に設定することができ、圧縮機の効率を向上できる」との作用効果を有している。

一方、引用例2には、同引用例記載の考案について、「第1のガス吸入管(5)は第2のガス吸入管(6)より長く、圧力損失が大きくなるように構成されている」(7頁17行ないし19行)ことが記載されており、このことは、すなわち、圧力損失の面から、各吸入管を、それぞれ独自に最適長に設定することができるということに相当する。

したがって、「各吸入管をそれぞれ独自に最適長に設定することができる」ことが引用例2に記載されているとした審決の判断には、誤りはない。

イ 原告は、圧縮機の効率の向上という作用効果は、最適長をもってなされた第1及び第2の各吸入管内での適正な圧力脈動により達成されるものであると主張するが、本願発明は、適正な圧力脈動のための吸入管の最適長を定めているものではないから、その作用効果も、積極的に圧力脈動を生ぜしめるというものではなく、第1及び第2の各吸入管を、アキュームレータ内の空間にそれぞれ独立に連通させることにより、各吸入管の長さを独立に定められるようにして、圧力脈動が生じる可能性をもたせたというものにすぎない。

そして、引用例2記載の考案も、アキュームレータ内の空間に、第1及び第2の各吸入管を独立に連通させているため、構成上、その可能性を有している。

ウ また、圧縮機において、吸入管の長さを適切に定めることにより、圧力脈動を利用して圧縮機の効率を向上させ得ることは、本出願前、周知の事項であったものである(例えば、昭和57年実用新案登録願第192587号の願書に添付の明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルムの写(昭和59年実用新案出願公開第96383号公報)、昭和57年特許出願公開第122192号公報、昭和55年特許出願公開第109781号公報)。

引用例2においては、圧力損失の面から、吸入管の特性を適切なものにするため、各吸入管を、それぞれ独自に最適長に設定することができるということが記載され、圧力脈動については言及されていないが、上記の周知事項を前提としてみれば、圧力脈動の面から、各吸入管をそれぞれ独自に最適長に設定することができるという本願発明の作用効果についても、当業者が引用例2から予測可能なことである。

エ この点に関連して、原告は、引用例2記載の考案が並列圧縮式冷凍装置に関するものであって、2気筒形回転圧縮機に関するものではなく、各シリンダが非同期に動作することにより、第1の吸入管と第2の吸入管に、非同期に冷媒ガスが流れるものであるから、上記考案においては、各吸入管内の圧力脈動に基づく作用効果を奏することができないと主張するが、圧力脈動による吸気効率の向上は、圧縮機の動作に基づく吸気の脈動と、吸入管の長さ等に基づく吸入管内のガスの振動特性との関連によって生じるものであって、圧縮機が回転式であるか否か、あるいは各シリンダが同期に動作するか否かによって本質的に変わるものではないから、引用例2記載の考案においても、圧力脈動による吸気効率の向上という作用効果を得ることが可能なものである。

オ 以上のとおりであるから、本願発明の吸入管の圧力脈動による作用効果については、引用例1、2記載の発明、考案から予測可能なものというべきである。

(2)  アキュームレータ内における圧力脈動の減少による作用効果について

本願発明は、「アキュームレータ内では、吸入ガスの相互干渉作用により圧力脈動を小さくでき、これによりアキュームレータの小型化を図れるとともに、脈動によりアキュームレータより発生する騒音も軽減できる」との作用効果を有している。

しかしながら、この相互干渉作用は、2気筒形回転圧縮機の吸入行程の位相ずれにより生じるものであるから、引用例1記載の発明も、当然に上記の相互干渉作用を奏するものである。

すなわち、第2、4(1)イ(イ)において原告も認めるように、引用例1記載の発明においても、吸入管の合流部(分岐点)で相互干渉作用が生じるのであるから、同発明においても、本願発明と同様に、合流部の先に連通するアキュームレータ内において、その圧力脈動を小さくすることができることになる。

更に、そもそも、アキュームレータは、内部の圧力を安定化する作用を有するものであり、引用例1及び引用例2にもアキュームレータが記載されている以上、引用例1記載の発明及び引用例2記載の考案のいずれをとっても、本願発明と比べて、アキュームレータ内の圧力脈動を小さくする作用効果に格別の差異はないものである。

したがって、この点に関する審決の判断にも誤りはない。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第1  請求の原因1ないし3の各事実(特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨、審決の理由の要点)については当事者間に争いがない。

また、引用例1記載の発明の内容が審決記載のとおりであること、本願発明と引用例1記載の発明との間に審決摘示の一致点及び相違点ア、イが存在すること、引用例2記載の考案の内容が審決記載のとおりであること、本願発明の作用効果が審決記載のとおりであること、相違点イについての認定判断が審決における判断のとおりであることについても当事者間に争いがない。

第2  本願発明の概要について

成立に争いのない甲第5号証(本願発明についての特許願書及び願書添付の当初明細書、図面)、甲第6号証(平成2年12月13日付け手続補正書)、甲第7号証(平成5年6月28日付け手続補正書)及び乙第4号証(平成元年7月26日付け手続補正書、以下、一括して「本願明細書」という。)によれば、本願発明の概要は以下のとおりである。

1  本願発明は、主として、冷凍あるいは空気調和装置に用いられる2気筒形回転圧縮機に関するものであり、特に、冷媒の吸入系路での圧力損失の低減を図ったものである(甲第5号証明細書2頁17行ないし20行)。

2  別紙図面(1)第2、第3図は、従来の2気筒形回転圧縮機を示すものであるが、そこにおいては、駆動軸(1)が回転すると、これにより、シリンダ(2a)(2b)の内周面に沿ってローリングピストン(4a)(4b)が転動し、第3図の矢印のように、低圧冷媒ガスが、吸入管(13)、及び、中間仕切板(9)に設けられた吸入通路(14)(15)を通って、圧縮室(3a)(3b)の低圧室に吸入され、圧縮されて、高温高圧の冷媒ガスとなり、吐出管より送出される(甲第5号証明細書3頁2行ないし4頁3行、乙第4号証2頁4行ないし9行、甲第6号証3頁10行、11行)。

このように、従来例における冷媒ガスの吸入通路は、中間仕切板(9)に設けられているため、複雑な加工工程を必要とし、大容量の場合には当該吸入通路での圧力損失が大きくなり、これを避けようとすると、中間仕切板を厚くし吸入通路の内径を拡大する必要があるが、その場合には、駆動軸(1)の軸受(7)(8)間の距離が増大し、軸撓みのためこ軸受に片当りが生じ、軸受及び駆動軸の信頼性が低下するという欠点があった(甲第5号証明細書4頁5行ないし13行)。

また、上記圧縮工程において、吸入ガスを吸い込む際、吸入通路の長さを最適にすることにより吸入効率を上げることができるが、2気筒形回転圧縮機の場合には、各シリンダの吸入工程に180度の位相ずれがあり、しかも、第1、第2の吸入通路(14)(15)が直接吸入管に接続されているので、各吸入通路長を独自に最適に設定することができず、吸入効率を上げることができないという欠点もあった(乙第4号証2頁10行ないし20行)。

3  本願発明は、このような問題点の解決を目的として、要旨記載の構成を採用し、吸入通路を、中間仕切板に設けずに、吸入行程に位相ずれがある各シリンダに設け、また、各吸入管を、共通のアキュームレータを介して共通吸入管に接続させたものである。なお、別紙図面(1)第1図は、その実施例を示す要部断面図である(甲第5号証明細書4頁13行ないし5頁1行、9行、10行、乙第4号証3頁1行ないし3行、甲第6号証2頁4行ないし6行、甲第7号証2枚目2行ないし11行)。

4  本願発明における2気筒形回転圧縮機は、上記のように、吸入行程に位相ずれのある両シリンダ間に介装された中間仕切板とほぼ平行に、上記各シリンダ内に、冷媒ガスの吸入通路を設けた上、これらの吸入通路に先端を挿入した吸入管を、密閉外被の外側に延長させて、その反対の端を、アキュームレータを介して共通吸入管に接続させているので、本願発明においては、各吸入管を、それぞれ独自に最適長に設定することができ、圧縮機の効率を向上することができるという作用効果を奏するとともに、アキュームレータ内においては、吸入ガスの相互干渉作用により圧力脈動を小さくでき、これによりアキュームレータの小型化を図ることが可能であるとともに、アキュームレータから脈動により発生する騒音も軽減することができるという作用効果が得られる(甲第5号証明細書8頁16行ないし9頁6行、乙第4号証4頁13行ないし20行、甲第6号証2頁12行ないし3頁2行)。

第3  審決取消事由について

原告は、引用例1記載の発明において、引用例2記載の考案(構成〈2〉)を適用することにより、相違点アに係る本願発明の構成を得ることの容易想到性についてくもっぱら本願発明の奏する作用効果が、当業者において、引用例1記載の発明と引用例2記載の考案との組合わせにより予測することが不可能であり、審決の相違点アの判断は誤っている旨主張するので、以下、この点について検討する。

1  吸入管の長さの調節による圧縮機の効率向上の作用効果について

(1)  まず、原告は、本願発明においては、2気筒形回転圧縮機における第1及び第2の各吸入管をそれぞれ直接アキュームレータに連通させることにより、各吸入管の長さを、適正な圧力脈動に合わせた最適のものに設定することができ、そのことにより、圧縮機の効率を飛躍的に向上させるという顕著な作用効果を奏するものであること、また、本願発明のこの作用効果は、当業者において、引用例1記載の発明及び引用例2記載の考案の組合わせにより容易に予測し難いものであることを主張する。

(2)ア  そこで、検討するに、前出甲第5、第6号証、乙第4号証によると、本願明細書においては、本願発明の作用効果について、前記第2、4のとおり記載されていることが認められ、この記載からみるならば、本願発明における圧縮機の効率の向上は、各吸入管がアキュームレータにそれぞれ独自に接続され、かつ、それらをそれぞれ最適の長さとすることにより適正な圧力脈動を生じさせ、それによって達成されるものであることが明らかである。

イ  一方、本願発明の特許請求の範囲においては、本願発明の各吸入管について、「この空間(アキュームレータ内の空間)に連通させた第1および第2の吸入管の先端をそれぞれ上記密閉外被を通して上記の対応各吸入通路(密閉外被に収納された各シリンダに通じる通路)内に挿入させた」と記載(請求の原因2)されているのみであり、吸入管のそれぞれが、別個に、アキュームレータと各シリンダの吸入通路との間を連通する構成とされていることが認められるものの、各吸入管の長さについては、格別の限定が加えられているものではないことが認められる。

ウ  そうすると、本願発明においては、各吸入管の最適な長さをもって、アキュームレータに接続させることを構成要件とするものではないというべきであるから、「圧縮機の効率を向上させる」との本願明細書記載の前記作用効果も、本願発明の構成要件に直接基づく効果ではなく、その作用効果は、各吸入管を別々にアキュームレータに接続させるという本願発明の構成により、各吸入管の長さをそれぞれ最適なものに調整することができることとなり、それにより、圧縮室の吸入行程と相俟って、適正な圧力脈動を生じさせることができるという可能性を持たせるに至ったことをいうものと解される。

(3)ア  次に、引用例2記載の考案は、審決記載のとおり、並列式の2気筒形ピストン圧縮機とアキュームレータとを備えた冷凍装置であり、そのうち、構成〈2〉のものが、本願発明と同様に、第1及び第2の各吸入管(ガス吸入菅5、6)を、アキユームレータ(液分離器3)に直接接続したものであることは当事者間に争いがなく、引用例2記載の考案における上記構成〈2〉のものを、圧縮機の種類のみを変更して、2気筒形回転圧縮機とアキュームレータとを備えた冷凍装置である引用例1記載の発明に適用すること自体は、当業者にとって格別困難な事項とはいえない。

イ  また、成立に争いのない甲第3号証(引用例2)によると、引用例2においては、引用例2記載の考案について、次のとおり記載され、第1及び第2の各吸入管を、それぞれ最適の長さに調節すべきものとされていることが認められる。

「第1のガス吸入管(5)は第2のガス吸入管(6)より長く、圧力損失が大きくなるように構成されている。」(7頁5行ないし7行)

「第1のガス吸入管(5)は第2のガス吸入管(6)より長く、圧力損失が大きくなるように構成されているため、吸入室(108)、(208)と油溜室(104)、(204)との夫々の圧力関係は、吸入室(108)<油溜室(104)<油溜室(204)<吸入室(208)の順となる。従って、第2の圧縮機(2)の吸入室(208)に吸入された潤溜油(潤滑油の誤り)は第2の逆止弁(211)を通って油溜室(204)へ供給されると共に、均油管(11)と第8の逆止弁(12)を通って油溜室(104)へも供給される。」(同7頁17行ないし8頁6行)

ウ  もっとも、上記記載から明らかなとおり、甲第3号証によると、引用例2記載の考案において各吸入管の長さを調節する目的は、第1及び第2のガス吸入管の圧力損失の差を利用して潤滑油の供給を行うことにあることが認められ、本願発明のように、各吸入管の長さの調節により適切な圧力脈動を生じさせることとはされていない。

しかしながら、成立に争いのない乙第1号証(昭和57年実用新案登録願第192587号(昭和59年実用新案出願公開第96383号)の願書に添付の明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルムの写)、第2号証(昭和57年特許出願公開第122192号公報)、第3号証(昭和55年特許出願公開第109781号公報)によるならば、本出願前に公開された乙第1ないし第3号証の各明細書及び公報においては、圧力脈動及び吸入管の長さについて、それぞれ次のとおり記載されていることが認められるほか、前出乙第4号証によると、本願明細書中においても、本願発明の従来技術について、前記第2、2のとおり、「圧縮工程中吸入ガスを吸い込む際、吸入通路内に脈動が生じるので吸入通路の長さを最適にすることにより吸入効率を上げることができるが」(2頁12行ないし14行)と記載されていることが認められる。

(ア) 昭和59年実用新案登録願第96383号添付の明細書(乙第1号証)

考案の名称 コンプレッサ用吸気ダクト

「例えば、レシプロ(往復動)タイプのコンプレッサは、吸気と排気とを交互に行うものであるから、吸気が脈動を起こし、その吸気の脈動が圧力変動であるために、吸気効率に影響を及ぼすことは周知の通りである。すなわち、吸気の脈動数と吸気ダクト内の固有気柱振動数とが一致し、気柱共鳴を生じる場合に、ダクト内の圧力が上昇し、過給効果が得られ体積効率の向上を図ることができる。」(1頁17行ないし2頁3行)

「この考案の特徴は、コンプレッサへ空気を供給するための吸気ダクトの固有気柱振動がコンプレッサの吸気によって生じる空気の脈動と共鳴するよう吸気ダクトの長さを調節することができるダクト管長調節装置を吸気ダクトに設けたことであり、したがってこの考案によれば、吸気が脈動となるレシプロコンプレッサの吸気の脈動数と吸気ダクト内の固有気柱振動数が一致して気柱共鳴が生じ、その結果ダクト内の圧力が上昇して過給効果が得られるのである。」(3頁3行ないし12行)

(イ) 昭和57年特許出願公開第122192号公報(乙第2号証)

発明の名称 ロータリ式圧縮機

「圧縮機要素の吸入系に設けられた容積形吸入マフラから圧縮機要素のシリンダ室内へ吸入ガスを導く吸入接続管において、圧縮機要素の吸入行程周期をT(sec)とし、吸入ガスの吸入時状態の音速をa(m/sec)としたとき、

(T・a/4-0.2)±0.1=1

より得られる1(m)の長さをもって前記吸入接続管の長さとしたことを特徴とするロータリ式圧縮機。」(特許請求の範囲、1頁左下欄5行ないし12行)

「この発明はローダリ式圧縮機に係り、特に圧縮機の圧縮要素(一般にはシリンダ室内)ヘガスを導入するために用いられている吸入接続管で生じるガスの圧力脈動を吸入接続管内で共振増幅させ、ガスの吸入効率向上を図るようにしたロータリ式圧縮機を提供することを目的とする。」(同欄14行ないし19行)

「一方、吸入管5からの吸入ガスがシリンダ8内へ入るまでの間で、吸入ガスが吸入接続管7内を通過するとき諸々の要因によりガスの圧力脈動が生じる。この圧力脈動は吸入接続管7の長さと吸入行程周期、および吸入ガスの音速(吸入ガスの状態)により影響を受ける。」(2頁左上欄16行ないし4欄1行)

「第3図、第4図から圧縮機の容積効率が最高となる吸入接続管長と、吸入圧力脈動振幅が最大となる吸入接続管長とは同じである。」(同頁左下欄7行ないし9行)

(ウ) 昭和55年特許出願公開第109781号公報(乙第3号証)

発明の名称 電動圧縮機の作動制御装置

「要するに、特定の圧力室内にて生じた圧力脈動が圧縮行程中の最も有利な地点に於て、最大値又は最小値をとる様制御することを要する。

前記の目的を達成する為、各吸込導管の長さを等しくして、吸込圧力室の容積、吸込導管の直径及び長さを適合させることを要する。」(3頁右上欄18行ないし左下欄3行)

以上のような各記載内容、技術事項等を勘案するならば、圧縮機において、吸入管の長さを適切に定めることから生じる圧力脈動を利用して、圧縮機の効率を向上させ得ることは、本出願日前において、当業者に周知の事項であったものと認められる。

エ  更に、引用例1記載の発明に引用例2記載の考案を組み合わせた場合において、第1及び第2のガス吸入管の長さをそれぞれ別個に調節し、適切な圧力脈動を生じさせることが可能であることについても、これを否定すべき事由は、特に見当たらないところである。

この点について、原告は、引用例2記載の考案における各シリンダは非周期的に動作するものであるから、それらにおいては、そもそも圧力脈動を生じさせることができない旨を主張する。しかしながら、前記の周知技術の内容からみて、圧力脈動自体は、各シリンダの回転式・非回転式、シリンダ動作の周期的、非周期的にかかわらず生じ得るものであり、後はそれを適切なものに調整することの問題であることが明らかであるから、原告の上記主張は失当というべきである。

また、原告は、引用例1記載の発明においては、第1及び第2の各吸入管の分岐点において圧力脈動が相殺されることから、各吸入管において適切な圧力脈動が生じることはありえないと主張する。しかしながら、審決においては、吸入管とアキュームレータとの関係から適切な圧力脈動が生じるとの作用効果は、引用例1ではなく、引用例2に記載されているものとしているのであるから、原告の上記主張もまた失当というべきである。なお、前記ウのとおり、圧力脈動が、吸入管の長さを適切に定めることにより生じるものであることを考慮すると、引用例1記載の発明においても、各吸入管が、シリンダに対し個別に接続されるとともに、共通吸入管との合流部分まで、それぞれ別個に存在している(請求の原因3(2))のであるから、同発明において、圧縮要素の吸入行程と各吸入管の長さを適切に調節することにより、圧力脈動を起こす可能性自体は、共通吸入管との合流部分が圧力脈動の妨げとなるとしても、存在するものと考えられる。

オ  以上のアないしエを合わせ考慮するならば、2気筒形回転圧縮機について、引用例1記載の発明と引用例2記載の考案との組合せにより本願発明の構成を採用することによって、第1及び第2の各吸入管の長さをそれぞれ調節することが可能となり、各吸入管内において適切な圧力脈動を生じさせることが可能になるという、本願発明についての前記(2)の作用効果が生じることに関しては、当業者において、容易に予測することが可能であったものと認めるのが相当である。

なお、原告は、本願発明が、吸入管内に圧力脈動を生じさせることを目的とするものであるのに対し、引用例2記載の考案は、潤滑油を供給するために、ガス吸入管内の圧力関係を調節することを目的とするものであるから、両者は目的(課題)を異にするものであるとも主張するが、両者は、結局のところ、いずれも、吸入管内の圧力の調整により圧力損失を防ぎ、圧縮機の効率を向上させることを目的(課題)とする点において一致するものというべきであるから、上記の相違は、引用例2記載の考案を引用例1記載の発明に組み合わせることについて、ないしはそれによる作用効果の予測可能性について、格別の支障となるものとはいえず、原告の上記主張も失当である。

(4)  以上によれば、原告の前記(1)における主張は理由がないものといわざるをえない。

2  アキュームレータ内における圧力脈動の減少による作用効果について

(1)  更に、原告は、本願発明においては、各吸入管をそれぞれアキュームレータ内に連通させることにより、アキュームレータ内における各吸入ガスの相互干渉作用をもって圧力脈動を小さくすることができ、そのため、アキュームレータの小型化と騒音の軽減を図ることができるという顕著な作用効果を奏するものであり、その作用効果は、引用例1記載の発明と引用例2記載の考案との組合せからは予測し難いものであると主張する。

(2)  そこで検討するに、本願明細書において、本願発明の作用効果について前記第2、4のとおり記載されていることは、前記1(2)アのとおりである。

この記載からみるならば、本願発明のアキュームレータ内において吸入ガスの相互干渉作用が生じ、圧力脈動を減少させるに至るのは、2気筒形回転圧縮機の吸入行程に位相ずれがあることによるものであることが明らかである。

そして、引用例1記載の発明も、第1及び第2の各吸入管を有し、シリンダへのガス吸入行程に位相ずれを有する2気筒形回転圧縮機についてのものであり、その点において本願発明と一致することについては、前記第1のとおり当事者間に争いがない。

(3)  そうすると、引用例1記載の発明においても、第1及び第2の各吸入管の長さにより、吸入ガスの相互干渉作用が生じ、圧力脈動が減少し得るものであり、また、その相互干渉作用が生ずる箇所は、その性質上、引用例1記載の発明における第1及び第2の各吸入管の合流点(分岐点)部分であることが明らかである。

そして、引用例1記載の発明においては、上記合流点において第1及び第2の各吸入管を1本の共通吸入管にまとめ、それを気液分離器(本願発明におけるアキュームレータに相当)に接続しているものである(請求の原因3(2))以上、引用例1記載の発明における上記の気液分離器内にあっても、合流点からの影響により、圧力脈動が減少した状態となっていることが明らかである。

(4)  ところで、一般に、アキュームレータは、吸入管の断面積よりも大きな断面積を有することによって、大きな容積を備えるものであり、このことは、別紙図面(1)ないし(3)を参照するならば、本願発明、引用例1記載の発明、引用例2記載の考案においても同様と認められる。

そして、上記のようなアキュームレータは、その大きな容積により内部の圧力を安定化する作用を当然に備えているものであるから、引用例1記載の発明及び引用例2記載の考案のアキュームレータにおいても、内部圧力を安定させる作用、すなわち内部の圧力脈動を減少させる作用をもともと有しているものであることが明らかである。

そうすると、引用例1記載の発明における、前記(3)のとおりの合流点及びアキュームレータ内における圧力脈動の減少状況を考慮するならば、引用例1記載の発明において、吸入管の合流部に生じる吸入ガスの相互干渉作用による圧力脈動の減少を、本願発明のアキュームレータ内において更に大きく生じさせることについては、当業者において、引用例1記載の発明及び引用例2記載の考案の組合せから十分に予測可能なものというべきである。

(5)  そして、本願発明における上記の圧力脈動の減少によるアキュームレータの小型化及び騒音の減少の作用効果についても、圧力脈動の減少という作用効果が生じることに伴い、当然に予測されるところであることは明らかである。

(6)  以上によれば、本願考案におけるアキュームレータでの圧力脈動の減少及びアキュームレータの小型化、騒音の減少という作用効果についての予測可能性をいう原告の上記主張も、また失当というべきである。

第4  以上によれば、審決には原告主張の違法はなく、その取消しを求める原告の本訴請求は理由がないものというべきであるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 春日民雄 裁判官 持本健司)

別紙図面(1)

2a:シリンダ

2b:シリンダ

3a:圧縮室

3b:圧縮室

9:中間仕切板

10:密閉外被

13a:吸入管

13b:吸入管

14A:吸入通路

15B:吸入通路

16:共通吸入管

17:アキュームレータ

17a:アキュームレータ

17b:アキュームレータ

18:仕切板

18a:隙間

〈省略〉

別紙図面(2)

図面の簡単な説明

第1図は本発明一実施例の冷媒回路図、第2図は同実施例の要部断面概略図、第3図イ、ロは第2図の異なる部分の拡大詳細横断面図、第4図は同実施例の電磁弁の制御態様と能力段階とを表示した説明図である。

1…圧縮機、2、3…圧縮要素、6、7…ロータ、12、13…シリンダ、20…利用側熱交換器、26…熱源側熱交換器、28、29、33、34…電磁弁、30、31…吸込管、37、38…インジニクション管

〈省略〉

別紙図面(3)

図面の簡単な説明

第1図は従来の並列圧縮式冷凍装置を示す部分構成図である。第2図はこの考案に係る並列圧縮式冷凍装置を示す部分構成図である。

図において、各図中同一部分は同一符号を付しており、(1)、(2)は第1、第2の圧縮機、(101)、(201)はクランクケース、(102)、(202)は隔壁、(108)、(208)は吸入室、(104)、(204)は油溜室、(111)、(211)は第1、第2の逆止弁、(3)は液分離器、(801)は油返し孔、(802)はU字管、(5)、(6)は第1、第2のガス吸入管、(11)は均油管、(12)は第8の逆止弁、(13)は油返送管、(14)は電磁弁である。

〈省略〉

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